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名古屋高等裁判所 昭和51年(ネ)243号 判決 1977年11月09日

控訴人

藤本長子

外四名

右控訴人ら訴訟代理人

田辺善彦

外一名

被控訴人

タカケンサンシヤイン株式会社

右代表者

高木照男

右訴訟代理人

大塩量明

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人はクリーニング、自社製品のリース販売等を営む株式会社であるところ、被控訴人と控訴人らとの間に別紙一覧表記載のとおりその営業に関し、一定期間の競業避止義務条項及び違約金条項に関する点を除き、被控訴人主張のとおりの内容の営業取次契約及びその連帯保証契約が締結されたことは当事者間に争いがない。

そして右契約締結に際し、右当事者間で、右二ケ条を含め、被控訴人主張の内容と同一の記載がある取次営業契約書が取り交わされたことは控訴人らの明らかに争わないところである。

二ところで控訴人らは右契約書中の違約金条項は例文であつて当事者を拘束するものでない旨主張し、これに副う<証拠>もあるが、後記認定の事実に照らして措信し難く、他に右条項が例文であることを認めるべき証拠はない。

かえつて、<証拠>によれば、

被控訴人は右営業取次契約を締結するに際しては、取次営業主となるべき者に対し、被控訴人において用意しておいた取次営業契約書を手渡し、その内容について具体的に説明のうえ、右取次営業主及びその連帯保証人となるべき者にこれに署名押印を求めるのを建前としていた。ただ実際には右契約の勧誘にあたつた被控訴人の係員が契約の締結を急ぐあまり、細部にわたつて具体的詳細な説明を加えない場合もあつたが、本件にあつては右係員から右控訴人らに対し、右契約書を良く読んでおくようにとの説明があり、控訴人らは右契約書が営業取次に関する条項を定めたものであることを認識して、これに署名押印した(勿論右契約書には被控訴人主張の前記二ケ条の記載がある)。右契約書は不動文字で印刷されているが、一般に市販されているものをそのまま使用したというものではないし、右二ケ条が取次営業中止の項の下に重要な位置を占めている。一方において取次営業主となつた後、控訴人らはそれぞれの営業を中止したのであるが、その際営業取次契約を締結することを予定していた有限会社小山クリーニングセンターの係員に対し、右中止によつて将来被控訴人との間に生ずるかも知れない紛争について右小山クリーニングセンターにその解決を依頼していた(このことは控訴人らが被控訴人との取次営業をその時点で中止すれば被控訴人から何らかの制裁を受けることを危惧していたことを窺わせるものである)。

以上の事実が認められるのであつて、これらの事実に被控訴人のようなクリーニング加工、製品のリース販売を営業とする者にとつては、継続的に安定した取次営業主(店)を確保助成することは、企業運営上からも緊要のことであつて、そのために被控訴人が取次営業主に対し、一定期間の競業避止義務を課し、これに違反する者から一応予想される損害額等も考慮したうえ違約金を徴したとしても、そのこと自体は企業防衛上やむを得ないし、法の趣旨にも合致するものであること(商法四八条、五〇条参照、もつとも競業避止、違約金条項が一見して無意味であるとか、公序良俗に反するとかが明らかならば格別本件ではそのようなものではない)を参酌して考えれば、右違約金条項が単なる例文ではないことは勿論、被控訴人と控訴人らとの間で、被控訴人主張の競業避止義務及びこれに違反した場合の違約金条項についても合意の成立していたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三控訴人らは本件取次営業契約を解除した旨主張する。

右契約が取次営業主たる控訴人らをして、いわば商法上の代理商に類した立場に立たせるものであることは、右契約の趣旨から明らかであつて、控訴人らもこれを争わないところである。したがつて右のような契約関係を解除するについては個々の取引行為についての債務不履行を言うだけでは足りず、一定の予告期間を置くか、解除をやむを得ないとする事由が必要と解されるところ、この点、控訴人らは前者については明確な主張をせず、後者についてはこれを認めるべき確たる証拠がない。よつてその余の点につき判断するまでもなく控訴人らの解除の主張は採用できない。

四控訴人らは前記違約金条項が公序良俗に反し全部無効である。仮りに然らずとしても禁反言の法理に照らして右条項に基づく請求は許されない旨主張する。

しかしながら、右条項はそれ自体何ら公序良俗に反するものではなく、また被控訴人の係員において、その説明に欠ける点があつたからといつて、そのことから直ちに被控訴人において右条項の不適用を明言したことになる訳でもないことは前二項において認定の事実に照らして明らかであり、他に右条項が全部無効であること、右条項に基づく請求が禁反言に該当すべきことを認めるべき証拠はない。

しかしながら、取次営業主である控訴人らが被控訴人の営業の取次を廃し、他の業者の営業の取次をしたからとて、控訴人らは取次手数料以外の利益を得るわけではなく、一方被控訴人としても新規に営業取次主をみつけこれと契約するまで収益が減少する不利益を蒙る程度の犠牲を払うだけのことであるから、右新規契約に至るまで相当の期間内の減益を控訴人らに償わせれば足り、これを超えて高額の違約金の制裁を課する契約はその超過限度において公序良俗に反し、無効とすべきである。

よつて、この見地において本件をみるに営業者が各取次営業主に対し、自己の取得すべき利益より高率の取次手数料・報酬(これが各取次営業主の収益)を支給することは通常ありえないことと考えられるので、取次営業主である控訴人らの手数料が二割五分である以上、被控訴人の収益もこれと同率である売上高の二割五分は下らないと推認すべきであるが、これを超えるものであることの立証はなく、また一般に継続的契約の終了に際し、新しい状態へ移行するため相当の準備期間が必要なことは容易に了解されるところ、被控訴人申請の前記証人中村賢良自身、六ケ月あれば他の取次店を見つけられる旨供述していること等を合せ考えれば、右違約金の額は契約終了前二ないし三ケ月の平均売上高の二割五分の六ケ月分を相当とすべく、その余は無効と解すべきである。そうすると控訴人らの主張は右の限度で理由がある。

五控訴人藤本長子、同北五十鈴が被控訴人との本件取次営業を中止するや直ちに同地点で被控訴人と同業者である訴外有限会社小山クリーニングセンターとの間で同種の取次営業を開始したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右中止の時期がそれぞれ別紙記載のとおりであり、それが控訴人らの一方的契約廃棄によるものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

六そこで前認定の違約金条項に基づき控訴人らの支払うべき違約金額につき検討する。

<証拠>によれば、本件取次営業廃止直前の平均売上月額及びその二割五分の六ケ月分の違約金の額は、次の算式によつてそれぞれ別紙一覧表記載のとおり認めるのが相当である。

控訴人藤本長子関係

(232,240+216,020+181,470)

÷3=209,910

209,910×0.25×6=314,865(円)

同北五十鈴関係

(461,550+338,350)÷2=399,950

399,950×0.25×6=599,925(円)

<以下、省略>

(綿引末男 白川芳澄 福田晧一)

一覧表<省略>

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